2011年07月28日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 2286 count

三百字小説『アトランティスから来なかった男』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 海辺を歩いていると、男がいきなり僕の前に来た。

 「私はアトランティスから来た」

 男は若く、いかにもうさんくさそうだった。

 そこで、私は質問した。

 「私に何の用事だ?」

 「このツボには不思議なパワーがあるんだ。買ってくれないか?」

 ツボとはパターン通りだ。

 「おまえ、アトランティスから来たって嘘だろ」と私は指摘した。

 「えっ? なんでばれたの?」と男は狼狽した。いや、ばれて当たり前だって。

 「みんなレムリア知らないから、分かりやすくアトランティスって言っただけなのに!」と叫んで男は海に飛び込んで消えてしまった。それっきり男は浮かんでこなかった。試しにツボを海に入れてみると、なぜか魚が勝手にツボに入ってよく取れた。

(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦